特許庁より「先使用権制度の円滑な活用に向けて-戦略的なノウハウ管理のために-」ガイドラインが示されて以来、知的財産保護の分野ではタイムスタンプを利用した先使用権の確保や電子的著作物の権利確保が盛んに検討・利用されるようになってきました。
企業・個人を問わずほとんどのコンテンツが電子的に作られ、保存されている現在、それらを紙などに出力して保存するということが現実的に不可能となってきています。そのため、電子データのまま知的財産情報の保護が行えるタイムスタンプが注目されています。
しかし、電子データを用いた、先使用権確保をはじめとする知的財産保護においてはいくつかの問題点が存在します。特許制度による権利化が確定している場合を除くと、知的財産の保護を行うには極めて長期間において
1.コンテンツの生成日時と内容の証明
2.閲覧性の確保
3.データそのものの保存
1の「コンテンツの生成日時の証明」は、有効期間が長いタイムスタンプサービスを利用することで対応が可能です。特にAdobe Acrobat/Readerで標準搭載されている電子署名・タイムスタンプの証明形式は、デファクトスタンダードであること、仕様が公開されている標準形式であることから、長期間の証明・検証を行う際に最適です。特定のベンダー仕様に依存した証明形式(プラグイン形式など)を用いた場合、将来にわたって検証が可能である保証を得ることができません。これは知的財産保護に対する大きなリスクとなります。
2の「閲覧性の確保」には、できるだけ長期間にわたって閲覧ソフトが提供される可能性があるデータ形式を選ぶ必要があります。このような場合には、デファクトスタンダードのデータ形式やISO、JISなどで標準化され互換性が確保された閲覧ソフトが容易に入手できるデータ形式が望まれます。PDFが知的財産情報の保全に良く利用されるのは、デファクトスタンダードかつISO標準で公開された仕様に基づくためです。
3の「データそのものの保存」は、係争が発生するまでの間、いかにして証拠性を持つ情報を保存しておけるか、という問題です。この問題は、セキュリティ技術だけでは解決できない問題であり、むしろファイルサーバの維持管理や定期的なバックアップファイル作成といった運用面での解決が必要です。大企業であっても数十年に渡ってデータを保存し続けるのは非常に困難です。特に、システム移行や災害時にファイルサーバが滅失してデータそのものが失われれば、データにタイムスタンプを付けていたとしても無意味なことになります。このため、オンラインストレージ等の外部・遠隔地へのデータ保管を含めた情報管理体制の確保が必要となります。
上記のように、PDFファイルで電子署名・タイムスタンプを用いて知的財産保護を行い、かつ、外部ストレージ保管する方法を用いることで、比較的安価に安全な知的財産保護システムを構成することができます。
また、PDFには、添付ファイルとして様々なデータを添付できる機能があります。PDFに変換することが難しいデータ(CADデータ、映像、プログラムファイル等)でも、PDFに添付することで署名・タイムスタンプの保護対象とすることができます。また、一つのPDFに関連技術資料をまとめて添付することで、包袋のようなものを電子的に容易に作成することができます(下図)。PDF本体があたかも電子的な封筒の役目を果たし、電子署名・タイムスタンプが封印の役割を果たすことで、電子的な封筒に添付ファイルとして内包された知的財産情報を保護することができるようになります。 このような機能があらかじめ備わっているのもPDFの利点といえます。